朝。あたまのなかでは「まだ寝ていよう」と「もう起きようよ」の二人がゆるやかに相撲をとっている。それを遠巻きに眺めながらぼくの一日は始まる。
これでもかってくらい遮光してくれるカーテンを開けると「まだ寝ていよう」が白旗を上げ、うが〜っと伸びをしながら体を起こす。昨晩の楽しかった記憶で胃もたれなモーニングである。
大きめなあくびをしながら華麗に支度を済ませる。慣れたもんだ。
お気に入りの草履を履いて外に出ると、陽の光をいっぱいに浴びたアスファルトとカラッと乾いた風がまだ眠そうなぼくを出迎え、だいすきなネバヤンの「なんかさ」を聴きながら新緑のなかをるんるんで歩く。
夏だ。
やりたいことが溢れる季節
誰しも「やる気に満ち溢れる季節」があると思う。もういまの私ならなんでも出来るわ!かかってきなさいよ!と言わんばかりのアクティブさを小脇に抱えるシーズン。
なにを隠そうそれがぼくにとっては夏なのだ。夏になるともう心がウキウキして、どこへでも行けるし、なんだってできる。それはもう無我の境地になった越前リョーマのような攻撃的なプレイを展開する。
出典:テニスの王子様 第26巻 98-99ページ 著者:許斐剛
とにかく攻めに攻める。怖いもの知らずというよりは、ただの阿呆になる。スピード違反である。
たとえば去年の夏。ぼくはOVERALLという音楽チームをつくって、絵本の物語を描きはじめた。飲食店の経営もしながらブログ記事の外注化もスタートし、ガス欠寸前まで動きまわった。
これには良い面も悪い面もあるんだけど、とにかく夏になるとブレーキが外れて「失敗しても構わん」という思考になる。むしろ失敗バンザイ。いわばスター状態である。
壁にぶちあたって学ぶこと
でもまあ自分でハンドリングが上手くできないようなスピードを出すもんだから、壁にぶちあたることがよくある。交通事故ってやつだ。保険はハナからかけてない。
速度が速度なだけにその衝撃もすさまじいってなもんで、まあなかなかなダメージを受ける。何度むちうちになったか分からない。
だから夏が終わる頃にはまるでやんちゃな中学生のようにアザだらけで、それでもヘラヘラ笑って帰ってくるもんだから実家の母さんはさぞかし心配だったと思う。
夏がくる
今年もまた夏がくる。
汗だくになりながら外でサッカーをしたり、冷房をつけた部屋でカフェラテを飲みながら時をかける少女を観たり、夕暮れどきにはふらっとサンダルでお祭りに寄ったり、という恒例行事はもちろんするんだけど、たぶん、今年も無茶をするんだろうなって思う。
作詞もしてみたいし、北欧神話についてもっと知りたいし、学生たちに自分の絵本も届けたい。もうすでにやりたいことがポンポンと浮かんでいるし、やると思う。
たぶん近くにいるひとには迷惑もかけるし、巻き込んだりもすると思う。そんなときにも「またかよ〜」って笑いながら乗っかってくれるひとが周りにいてくれるから、ぼくは幸せだ。
むかしね、ぼくがソレをやるかどうか迷っているときに「できるよ」って背中を押してくれた友だちがいた。そのときは「ホントかよ」って思った。
でも、いまならその言葉の意味がわかる。
いつか悩める友だちが隣にいたときに「できるよ」って言い切るためにぼくは今日もアクセルを踏む。馬鹿だと笑われてもいい。しかたない、夏の仕業だ。